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やうなれどこなたかなたの御寶物多くなどして內々の儀式有樣など心にくゝけだかくなどもてなしてけはひあらまほしうおはす。例のかくかしづき給ふ聞えありて次々に從ひつゝ聞え給ふ人おほく內春宮より御氣色あれど內には中宮おはします。いかばかりの人かはかの御けはひにならび聞えむ、さりとて思ひ劣りひげせむもかひなかるべし。春宮には左のおほい殿の女御並ぶ人なげにてさぶらひ給ふはきしろひにくけれどさのみいひてやは人にまさらむと思ふ女子を宮仕に思ひたえては何のほいかはあらむと覺したちて參らせ奉り給ふ。十七八のほどにてうつくしうにほひ多かるこゝちし給へり。中の君もうちすがいてあてになまめかしうすみたるさまはまさりてをかしうおはすれば、たゞ人にてはあたらしう見せまうき御さまを兵部卿の宮のさもおぼしよらばなどぞおぼしたる。この若君をうちにてなど見つけ給ふ時はめしまどはしたはぶれがたきにし給ふ。心ばへありておく推し量らるゝまみひたひつきなり。「せうとを見てのみはえやまじと大納言に申せよ」などのたまひかくるを、「さなむ」と聞ゆればうちゑみていとかひありと覺したり。「人におとらむ宮仕よりはこの宮にこそはよろしからむ女子は見せ奉らまほしけれ。心のゆくにまかせてかしづき見奉らむに命のびぬべき宮の御さまなり」との給ひながら、まづ春宮の御事をいそぎ給ひて春日の神の御ことわりも我が世にやもし出できて故おとゞの院の女御の御事を胸いたくおぼして止みにしなぐさめの事もあらなむと心のうちに祈りて參らせ奉り給ひつ。いと時めき給ふよし人々聞ゆ。かゝる御まじらひのなれ給はぬ程にはかばかしき御後見なくてはいかゞ