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るにかく親しき御なからひにて心あるやうならむもびんなくて日たけてぞ渡り給へる。大將のしたり顏にてかゝる御なからひにうけばりてものし給ふも、げに心やましげなるわざなめれど御うまごの君達はいづかたにつけてもおり立ちてざふやくしたまふ。こものよそえだ、をりひづものよそぢ中納言をはじめ奉りてさるべきかぎりとり續け給へり。御かはらけくだり若菜の御羹參る。御前には沈のかけはん四つおほんつきどもなつかしく今めきたる程にせられたり。朱雀院の御藥のこと猶たひらぎはて給はぬにより樂人などは召さず。御笛などおほきおとゞのその方はとゝのへ給ひて、世の中にこの御賀より又珍しく淸らを盡すべきことあらじとのたまひて勝れたるねのかぎりをかねてよりおぼし設けたりければ忍びやかに御遊あり。とりどりに奉る中に和琴はかのおとゞの第一に祕し給ひける御琴なり。さるものゝ上手の心を留めてひき鳴らし給へるねいとならびなきを、ことひとは搔きたてにくゝし給へば、右衞門督のかたくいなぶるをせめ給へば、げにいとおもしろくをさをさ劣るまじくひく。何事も上手のつぎといひながらかくしも得つがぬわざぞかしと心にくゝ哀に人々おぼす。しらべに從ひてあとある手ども定まれるもろこしのつたへどもはなかなか尋ね知るべき方あらはなるを、心にまかせて唯搔き合せたるすがゝきに、萬の物の音とゝのへられたるは、たへにおもしろく怪しきまでひゞく。父おとゞはことのをもいとゆるにはりていたうくだして調べ響き多く合せてぞ搔きならし給ふ。これはいとわらゝかにのぼるねのなつかしく愛敬づきたるを、いとかうしもは聞えざりしをと御子達も驚き給ふ。琴は兵部