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しく、かんの君物のみやび深くかどめき給へる人にてめなれぬさまにしなし給へり。大かたのことをば殊更に事々しからぬ程なり。人々參りなどし給ひておましに出で給ふとてかんの君に御對面あり。御心のうちには古おぼし出づることもさまざまなりけむかし。いと若く淸らにてかく御賀などいふことはひがかぞへにやと覺ゆるさまのなまめかしく人のおやげなくおはしますを、珍しく年月へだてゝ見奉り給ふはいと恥しけれど猶けざやかなるへだてもなくて御物語聞えかはし給ふ。幼き君もいと美しくて物し給ふ。かんの君は打ち續きても御覽ぜられじとのたまひけるを大將のかゝる序にだに御覽ぜさせむとて、二人同じやうに振分髮の何心なき直衣姿どもにておはす。「過ぐるよはひもみづからの心にはことに思ひ咎められず、唯昔ながらの若々しき有樣にて改むることもなきを、かゝる末々のもよほしになむなまはしたなきまで思ひ知らるゝ折も侍りける。中納言のいつしかと設けたなるをうとうとしく思ひ隔てゝまだ見せずかし。人より殊に數へとりける今日の子の日こそ猶うれたけれ。しばしは老を忘れても侍るべきを」と聞えたまふ。かんの君もいとよくねびまさりものものしきけさへ添ひて見るかひあるさまし給へり。

 「若菜さすのべの小松をひきつれてもとの岩根をいのる今日かな」とせめておとなび聞え給ふ。沈の折敷四つして御若菜さまばかりまゐれり。御かはらけ取り給ひて、

 「小松原すゑのよはひにひかれてや野べのわかなも年をつむべき」など聞えかはし給ひて上達部あまた南の廂につき給ふ。式部卿宮は參りにくゝおぼしけれど、御せうそこありけ