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心にくゝ物し給ふあたりにて、姬君の御けはひげにとありがたく勝れてよその聞えもおはしますに、まして少し近くもさぶらひなれたる女房などの委しき御有樣の事にふれて聞え傅ふるなどもあるにいとゞ忍びがたくおぼすべかめり。中將は世の中を深くあぢきなきものに思ひすましたる心なればなかなか心とゞめて行きはなれ難きおもひや殘らむなど思ふに、煩しき思ひあらむあたりにかゝづらはむはつゝましくなど思ひ捨て給ふ。さしあたりて心にしむべきことのなき程さかしだつにやありけむ、人のゆるしなからむ事などはまして思ひよるべくもあらず。十九になり給ふ年三位の宰相にて猶中將もはなれ給はず、みかどきさきの御もてなしにたゞ人にてははゞかりなきめでたき人のおぼえにてものし給へど、心のうちには身を思ひしるかたありて物哀になどもありければ心にまかせてはやりかなるすきごとをさをさ好まず、萬の事もてしづめつゝおのづからおよすげたる心ざまを人にもしられ給へり。三宮年にそへて心をくだき給ふめる。院の姬宮の御あたりを見るにもひとつ院の內に明暮立ちなれ給へば、事にふれても人のありさまを聞え見奉るにげにいとなべてならず、心にくゝゆゑゆゑしき御もてなし限なきを同じくはげにかやうならむ人を見むにこそ生ける限の心ゆくべきつまなれと思ひながら大方こそへだつることなくおぼしたれ。姬宮の御かたざまのへだてはこよなくけ遠くならはさせ給ふもことわりにわづらはしければあながちにも交らひよらず、若し心より外の心もつかばわれも人もいと惡しかるべきことと思ひしりて物馴れよることもなかりけり。我がかく人にめでられむとなり給へる有樣なれ