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こも內にも召しまつはし春宮も次々の宮達もなつかしき御あそびがたきにて伴ひ給へば、いとまなく苦しうていかで身をわけてしがなと覺え給ひける。をさな心地にほの聞き給ひしことのをりをりいぶかしうおぼつかなく思ひ渡れど問ふべき人もなし。「宮にはことの氣色にてもしりけりとおぼされむ。かたはらいたきすぢなれば世とゝもの心にかけていかなりける事にかは、何の契にてかうやすからぬ思ひ添ひたる身にしもなりいでけむ。ぜんげうたいしの我が身に問ひけむさとりをもえてしがな」とぞひとりごたれ給ひける。

 「おぼつかな誰にとはましいかにしてはじめもはても知らぬ我が身ぞ」。いらふべき人もなし。事にふれて我が身につゝがある心地するもたゞならず物なげかしくのみ思ひめぐらしつゝ宮もかく盛の御かたちをやつし給ひてなにばかりの御道心にてか俄に赴き給ひけむ、かく思はずなりけることのみだれに必ず憂しとおぼしなるふしありけむ、人もまさにもり出でしらじやは、猶つゝむべきことの聞えによりわれには氣色をしらする人のなきなめりと思ふ。明暮勤め給ふやうなめれどはかもなくおほどき給へる女の御さとりの程に蓮の露もあきらかに玉と磨き給はむことかたし、五つのなにがしも猶うしろめたきを、われこの御心地をたすけておなじうは後の世をだにと思ふ。かの過ぎ給ひにけむも安からぬおもひにむすぼゝれてやなどおしはかるに、世をかへても對面せまほしき心つきて元服はものうがり給ひけれどすまひはてず、おのづから世の中にもてなされてまばゆきまで花やかなる御身のかざりも心につかずのみ思ひしづまり給へり。內にも母宮の御かたざまの心よせ深