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おはしぬ。とりわきておほしたて奉り給へればこの宮と姬宮とをぞ見さし聞え給はむこと口惜しく哀におぼされける。秋待ちつけて世の中すこし凉しくなりては御心ちも聊さはやぐやうなれど猶ともすればかごとがまし。さるは身にしむばかりおぼさるべき秋風ならねど露けきをりがちにてすぐし給ふ。中宮は參り給ひなむとするを今しばしは御覽ぜよとも聞えまほしうおぼせども、さかしきやうにもありうちの御使の隙なきも煩しければさも聞え給はぬに、あなたにもえ渡り給はねば宮ぞ渡り給ひける。かたはらいたけれどげに見奉らぬもかひなしとて、こなたに御しつらひをことにせさせ給ふ。こよなう瘦せほそり給へれどかくてこそあてになまめかしきことの限なさもまさりてめでたかりけれと、きしかたあまりにほひ多くあざあざとかはせしさかりはなかなかこの世の花のかをりにもよそへられ給ひしを、限もなくらうたげにをかしげなる御さまにていと假初に世を思ひ給へる氣色似るものなく心苦しくすゞろに物がなし。風すごく吹き出でたる夕暮に前栽見給ふとて脇息により居給へるを院渡りて見奉り給ひて「今日はいとよく起き居給ふめるはこの御前にてはこよなく御心もはればれしげなめりかし」と聞え給ふ。かばかりのひまあるをもいと嬉しと思ひ聞え給へる御氣色を見給ふも心苦しく、つひにいかにおぼしさわがむと思ふにあはれなれば、

 「おくと見るほどぞはかなきともすれば風にみだるゝ萩のうは露」。げにぞ折れかへりとまるべうもあらぬ花の露もよそへられたるをりさへ忍びがたきを、