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前にて御あるじのこと、さうじものにてうるはしからずなまめかしくせさせ給へり。院の御前にせんかうのかけばんに御鉢など昔に變りて參るを人々淚おしのごひ給ふ。哀なるすぢのことゞもあれどうるさければかゝず。夜ふけてかへり給ふ。祿どもつぎつぎに賜ふ。別當大納言も御送に參り給ふ。あるじの院は、今日の雪にいとゞ御風くはゝりてかき亂り惱ましくおぼさるれどこの宮の御事聞え定めつるを心安くおぼしけり。六條院はなま心苦しうさまざまおぼし亂る。紫の上もかゝる御定めなどかねてもほのぎゝ給ひけれど、さしもあらじ、前齋院をもねんごろに聞え給ふやうなりしかど、わざともおぼし遂げずなりにしをなどおぼして、さることやあるともとひ聞え給はず何心もなくておはするにいとほしく、この事をいかにおぼさむ、我が心はつゆも變るまじく、さることあらむにつけてはなかなかいとゞ深さこそまさらめ、見定め給はざらむ程いかに思ひ疑ひ給はむなど安からずおぼさる。今の年比となりてはましてかたみにへだて聞え給ふことなく、あはれなる御中なれば、しばし心に隔て殘したることあらむもいぶせきを、その夜は打ち休みてあかし給ひつ。又の日雪打ち降り空の氣色も物哀に過ぎにし方行く先の御物語聞えかはし給ふ。「院のたのもしげなくなり給ひにたる御とぶらひに參りて哀なる事どものありつるかな。女三の宮の御ことをいと捨てがたげにおぼしてしかじかなむのたまはせつけしかば、心苦しくて得聞えいなびずなりにしを、ことごとしくぞ人はいひなさむかし。今はさやうのこともうひうひしくすさまじく思ひなりにたれば、人づてに氣色ばませ給ひしには、とかく遁れ聞えしを、對面のついで