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なり給ひ世の政御心にかなふべしとはいひながら、女の御ためになにばかりのけざやかなる御心よせあるべきにも侍らざりけり。すべての女の御ためにはさまざま誠の御後見とすべきものは猶さるべきすぢに契をかはし、えさらぬことにはぐゝみ聞ゆる御まもりめ侍るなむ後ろ安かるべきことに侍るを、なほしひてのちの世の御疑殘るべくばよろしきに思し選びて忍びてさるべき御あづかりを定め置かせ給ふべきになむ侍る」と奏し給ふ。「さやうに思ひよること侍れどそれもかたきことになむありける。いにしへのためしを聞き侍るにも世をたもつさかりのみこにだに人を選びてさるさまのことをし給へるたぐひ多かりけり。ましてかく今はとこの世を離るゝきはにてことごとしく思ふべきにもあらねど、又しかすつる中にも捨てがたきことありてさまざまに思ひ煩ひ侍る程に病は重りゆく。又とりかへすべきにもあらぬ月日の過ぎ行けば、心あわたゞしくなむ。かたはらいたきゆづりなれどこのいはけなき內親王ひとりとりわきてはぐゝみおぼしてさるべきよすがをも御心におぼし定めて預け給へと聞えまほしきを、權中納言などのひとり物しつる程に進みよるべくこそありけれ。おほいまうちぎみにせんせられてねたく覺え侍る」と聞え給ふ。「中納言の朝臣まめやかなる方は、いとよく仕うまつりぬべく侍るを何事もまだ淺くてたどり少くこそ侍らめ、かたじけなくとも深き心にて後見聞えさせ侍らむに、おはします御かげに變りてはおぼされしを、唯行く先短くて仕うまつりさすことや侍らむと、疑はしき方のみなむ心苦しく侍るべき」とうけひき申し給ひつ。夜に入りぬればあるじの院方もまらうどの上達部達も、皆御