Page:Kokubun taikan 02.pdf/228

提供:Wikisource
このページは校正済みです

の思ひ給ふらむ事、いにしへも何心もなうあひ思ひかはしたりし世の事、年比今はとうらなきさまにうちたゆみとけ給へるさまを思ひ出づるも、我が心もて、いと味氣なう思ひ續けらるれば、あながちにもこしらへ聞え給はず歎きあかし給ひつ。かうのみしれがましうて出で入らむもあやしければ今日はとまりて心のどかに坐す。かくさへひたぶるなるをあさましと宮はおぼいて、いよいよ疎き御氣色のまさるを、をこがましき御心かなとかつはつらきものから哀なり。塗籠も殊にこまかなる物多うもあらでかうの唐櫃御厨子などばかり、あるはこなたかなたにかきよせてけぢかうしつらひてぞおはしける。內はくらきこゝちすれど、朝日さし出でたるけはひもり來たるに、うづもれたる御ぞひきやり、いとうたて亂れたるみぐしかきやりなどしてほの見奉り給ふ。いとあてに女しうなまめいたるけはひし給へり。男の御さまはうるはしだち給へる時よりも打ち解けて物し給ふは限もなうきよげなり。故君の殊なることなかりしだに心のかぎり思ひあがり御かたちまほにおはせずと、事の折に思へりし氣色をおぼしいづれば、ましてかういみじう衰へにたる有樣をしばしにても見忍びなむやと思ふもいみじうはづかし。とざまかうざまに思ひめぐらしつゝ我が御心をこしらへ給ふ。唯傍痛うこゝもかしこも人のきゝおぼさむことの罪さらむかたなきに、をりさへいと心うければ慰めがたきなりけり。御手水御かゆなど例のおましの方に參れり。色ことなる御しつらひもいまいましきやうなれば、ひんがし面は屛風をたてゝも屋のきはに香染の御几帳などことごとしきやうに見えぬもの沈の二階などやうのをたてゝ心ばへありてしつらひ