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かしと思ひ給へり。お前に參り給へればかの事は聞しめしたれど何かはきゝがほにもとおぼいて唯うちまもり給へるに、いとめでたくきよらにこの比こそねびまさり給へる御盛なめれ。さるさまのすきごとをし給ふとも人のもどくべきさまもし給はず、鬼神も罪ゆるしつべくあざやかに物淸げに若う盛ににほひをちらし給へり。物思ひしらぬわかうどのほどにはたおはせず、かたほなるところなうねびとゝのほり給へることわりぞかし。女にてなどかめでざらむ、鏡を見てもなどかおごらざらむと我が御子ながらも覺す。日たけて殿には渡り給へり。入り給ふより若君たちすぎすぎうつくしげにてまつはれ遊び給ふ。女君は帳の內にふし給へり。入り給へれど目も見あはせ給はず。つらきにこそはあめれと見給ふもことわりなれど、はゞかり顏にももてなし給はず。御ぞをひきやり給へれば「いづことておはしつるぞ。まろは早うしにき、常に鬼とのたまへば同じくはなりはてなむとて」とのたまふ。「御心こそ鬼よりけにもおはすれ。さまはにくげもなければ得うとみはつまじ」と何心もなういひなし給ふも心やましうて「めでたきさまになまめい給へらむあたりにありふべき身にもあらねばいづちもいづちもうせなむとす。猶かくだになおぼし出でそ。あいなく年比を經けるだに悔しきものを」とて起きあがり給へるさまはいみじうあいぎやうづきてにほひやかにうち赤め給へる顏いとをかしげなり。「かく心幼げに腹立ちなし給へればにや、めなれてこの鬼こそ今は恐しくもあらずなりにたれ。かうがうしきけをそへばや」と戯にいひなし給へば「何事いふぞとよ。おいらかにしに給ひね。まろも死なむ。見ればにくし、聞けば愛ぎやう