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ましうなり給ひぬるかな。いつの程にありしことぞ」と驚きけり。なよゝかにをかしばめることを好ましからずおぼす人はかくゆくりかなることぞ打ちまじり給うける。されど年經にけることを音なく氣色ももらさで過ぐし給ひけるなりとのみ思ひなして、かく女の御心ゆるび給はぬと思ひよる人もなし。とてもかくても宮の御ためこそいとほしけれ。御まうけなどさまかはりて物のはじめゆゝしげなれど物まゐらせなど皆しづまりぬるにわたり給ひて、少將の君をいみじうせめ給ふ。「御志まことにながうおぼされば今日明日を過ぐして聞えさせ給へ。なかなか立ちかへりて物おぼししづみてなき人のやうにてなむふさせ給ひぬる。こしらへ聞ゆるをもつらしとのみおぼされたれば何事も身のためこそ侍れ。いと煩はしう聞えさせにくゝなむ」と聞ゆ。「いとあやしう推し量り聞えさせしには違ひていはけなく心得難き御心にこそありけれ」とて思ひよれるさま、人の御ためも我がためも世のもどきあるまじうのたまひ續くれば、「いでや只今は又いたづら人に見なし奉るべきにやと、あわたゞしき亂り心ちに萬思ひ給へわかれず。あが君とかくおしたちてひたぶるなる御心な遣はせ給ひそ」と手をする。「いとまだしらぬよかな。にくゝめざましと人よりけに覺しおとすらむ身こそいみじけれ。いかで人にもことわらせむ」と、いはむ方なしと覺してのたまへば、さすがにいとほしうもあり。「まだしらぬはげに世づかぬ御心構へのけにこそはと、ことわりはげに何方にかはよる人侍らむとすらむ」と、少しうち笑ひぬ。かく心ごはけれど今はせかれ給ふべきならねばやがてこの人をひきたてゝ推し量りにいり給ふ。宮はいと心うくなさ