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守めしてあるべきさはふのたまひ、宮のうちはらひしつらひ、さこそいへども女どちは草しげう住みなし給へりしを、磨きたるやうにしつらひなして御心づかひなどあるべきさはふめでたう壁代御屛風几帳おましなどまでおぼしよりつゝ大和守にのたまひてかの家にぞ急ぎつかうまつらせ給ふ。その日はわれおはしゐて御車御前など奉れ給ふ。宮は更に渡らじとおぼしのたまふを人々いみじう聞え大和守も「更にうけ給はらじ、心ぼそく悲しき御有樣を見奉りなげきこのほどの宮仕はたゆるに隨ひて仕うまつりぬ。今は國のことも侍り罷り下りぬべし。宮の內の事も見給へゆづるべき人も侍らず。いとたいたいしういかにと見給ふるを、かく萬におぼしいとなむを、げにこの方にとりて思ひ給ふるには必ずしもおはしますまじき御有樣なれど、さこそはいにしへも御心にかなはぬためし多く侍れ。一所やは世のもどきをもおはせ給ふべき。いと幼くおはしますことなり。たけうおぼすとも女の御心ひとつに我が御身をとりしたゝめ顧み給ふべきやうかあらむ。猶人のあがめかしづき給へらむに助けられてこそ深き御心のかしこき御おきてもそれにかゝるべきものなれ。君達の聞えしらせ奉り給はぬなり。かつはさるまじき事をも御心どもに仕うまつりそめ給ひて」といひつゞけて左近少將をせむ。あつまりてきこえこしらふるにいとわりなく、あざやかなる御ぞども人々の奉りかへさするもわれにもあらず、猶いとひたぶるにそぎ捨てまほしうおぼさるゝ御ぐしをかき出で見給へば六尺ばかりにて少しほそりたれど人はかたはにも見奉らず。みづからの御心には、いみじのおとろへや、人に見ゆべき有樣にもあらず、さまざまに心うき