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や。かの日は昔の御心あれば君達もまかでとぶらひ給ふ。誦經など殿よりもいかめしうせさせ給ふ。これかれさまざま劣らずし給へれば時の人のかやうのわざに劣らずなむありけり。宮はかくて住みはてなむと覺したつことありけれど院に人のもらし奏しければ「いとあるまじきことなり。げに數多とざまかうざまに身をもてなし給ふべき事にもあらねど、後見なき人なむ、なかなかさるさまにてあるまじき名をたち、罪えがましきときこの世後の世中空にもどかしき咎おふわざなる。こゝにかく世を捨てたるに三宮のおなじごと身をやつし給へる、すゑなきやうに人の思ひいふも捨てたる身に思ひなやむべきにはあらねど、必ずさしもやうのことゝ爭ひ給はむもうたてあるべし。世のうきにつけて厭ふはなかなか人わろきわざなり。心と思ひとるかたありて今すこし思ひしづめ心すましてこそともかうも」と度々聞え給ひけり。このうきたる御名をぞ聞しめしたるべき、さやうのことの思はずなるにつけてうんじ給へるといはれ給はむことをおぼすなりけり。さりとて又あらはれてものし給はむもあはあはしう心づきなきことゝおぼしながら耻しとおぼさむもいとほしきを、何かはわれさへ聞きあつかはむとおぼしてなむこのすぢはかけても聞え給はざりける。大將も、とかくいひなしつるも今はあいなし、かの御心にゆるし給はむことはかたげなめり、御息所の心しりなりけりと人にはしらせむ、いかゞはせむ、なき人に少しあさき咎はおほせていつありそめしことぞともなく紛はしてむ、さらがへりてけさうだち淚を盡しかゝづらはむもいとうひうひしかるべしと思ひ給ひて、一條にわたり給ふべき日その日ばかりと定めて大和