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とやくなし。本妻强くものし給ふ。さる時にあへるぞうるゐにていとやんごとなし。若君達は七八人になり給ひぬ。えみこの君おし給はじ、又女人のあしき身をうけ長夜のやみにまどふは唯かやうの罪によりなむ、さるいみじき報をもうくるものなる。人の御いかり出できなば長きほだしとなりなむ。もはらうけひかず」とかしらふりてたゞいひにいひ放てば「いとあやしきことなり。更にさる氣色にも見え給はぬ人なり。萬心ちのまどひにしかばうちやすみて對面せむとてなむ暫し立ちとまり給へるとこゝなる御達いひしを、さやうにてとまり給へるにやあらむ。大かたいとまめやかにすくよかに物し給ふ人を」とおぼめい給ひながら心のうちに、さることもやありけむ、たゞならぬ御氣色は折々見ゆれど人の御さまのいとかどかどしうあながちに人のそしりあらむことは省きすて、うるはしだち給へるに、容易く心ゆるされぬことはあらじとうちとけたるぞかし、人ずくなにておはする氣色を見てはひ入りもやし給ひけむとおぼす。律師たちぬる後に小少將の君をめして「かゝることなむ聞きつる。いかなりしことぞ。などかおのれにはさなむかくなむとは聞かせ給はざりける。さしもあらじとは思ひながら」とのたまへば、いとほしけれどありしやうを始より委しう聞ゆ。けさの御文のけしき宮もほのかにのたまはせつるやうなど聞え、「年比忍びわたり給ひける心のうちを聞えしらせむとばかりにや侍りけむ、ありがたう用意ありてなむ明しもはてゞ出で給ひぬるを、人はいかに聞え侍るにか」と律師とは思ひもよらで忍びて人の聞えけると思ふ。物ものたまはでいとうく口をしとおぼすに淚ほろほろとこぼれ給ひぬ。見奉るもいとい