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させ給はず、もろこしの后の飾をおぼしやりて麗しくことごとしく輝くばかりとゝのへさせ給へり。御腰ゆひにはおほきおとゞをかねてより聞えさせ給へりければ、ことごとしくおはする人にて參りにくゝおぼしけれど、院の御事を昔より背き申し給はねば參り給ふ。今二所のおとゞ達そののこりの上達部などは、わりなきさはりあるもあながちにためらひ助けつゝ參り給ふ。御子達八人殿上人はた更にもいはず、內春宮も殘らず參りつどひていかめしき御いそぎの響きなり。院の御事はこの度こそとぢめなれとみかど春宮を初め奉りて心苦しく聞し召しつゝ、藏人所をさめどのゝからものども多く奉らせ給へり。六條院よりも御とぶらひいとこちたし。贈物ども人々の祿尊者の大臣の御引出物など、かの院よりぞ奉らせ給ひける。中宮よりも御さうぞく櫛の箱心ことにてうせさせ給ひて、かのむかしの御ぐしあげの具故あるさまに改めくはへてさすがにもとの心ばへもうしなはず、それと見せて、その日の夕つ方奉らせ給ふ。宮の權のすけ、院の殿上にも侍ふを御使にて、姬宮の御方に參らすべくのたまはせつれどかゝることぞ中にありける。

 「さしながら昔を今につたふれば玉のをぐしぞかみさびにける」。院御覽じつけて哀におぼし出でらるゝことゞもありけり。あえものけしうはあらじと讓り聞え給へる程、げにおもだゝしきかんざしなれば、御返りも昔のあはれをばさし置きて、

 「さしつぎにみるものにもが萬世をつげのをぐしのかみさぶるまで」とぞ喜び聞え給へる。御心地いと苦しきを念じつゝおぼしおこしてこの御いそぎはてぬれば三日すぐして遂