Page:Kokubun taikan 02.pdf/180

提供:Wikisource
このページは校正済みです

ていひつゞけたる、いとたふとければ皆人々しほたれ給ふ。これはたゞ忍びて御念誦堂のはじめとおぼしたることなれど、內にも山のみかども聞しめして皆御使どもあり。みず經のふせなどいと所せきまでにはかになむことひろごりける。院にまうけさせ給へりける事どもそぐとおぼしゝかど、世の常ならざりけるをまいて今めかしき事どもの加はりたれば、夕の寺におき所なげなるまで所せきいきほひになりてなむ僧どもはかへりける。今しも心苦しき御心そひてはかりもなくかしづき聞え給ふ。院のみかどはこの御そうぶんの宮に住みはなれ給ひなむも、つひのことにてめやすかりぬべく聞え給へど「よそよそにては覺束なかるべし。明暮見奉り聞えうけ給はらむことをこたらむにほいたがひぬべし。げにありはてぬ世いくばくあるまじけれど猶生ける限の志をだに失ひはてじ」と聞え給ひつゝかの宮をもいとこまかに淸らにつくらせ給ふ。みふの物ども、國々のみさう、み牧などより奉るものどもはかばかしきさまのは皆かの三條の宮の御藏に納めさせ給ふ。又もたてそへさせ給ひて樣々の御寶ものども院の御そうぶんに數もなく賜はり給へるなどあなたざまの物は皆かの宮に運びわたしこまかにいかめしうしおかせ給ふ。明暮の御かしづきそこらの女房のことゞもかみしものはぐゝみはおしなべて我が御あつかひにてなむ急ぎ仕うまつらせ給ひける。秋頃西の渡殿の前の中の塀の東のきはをおしなべて野につくらせ給へり。あかの棚などしてその方にしなさせ給へる御しつらひなどいとなまめきたり。御弟子にしたひ聞えたる尼ども御乳母ふる人どもはさるものにて、若きさかりのも心さだまりさる方にて世を盡しつ