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うに見え給ひていみじうらうたきを見奉り給ふにつけては、などかうはなりにしことぞと罪えぬべくおぼさるれば、御几帳ばかり隔てゝ又いとこよなうけどほくうとうとしうはあらぬ程にもてなし聞えてぞおはしける。若君は乳母の許にねたまへりける、起きてはひ出で給ひて御袖をひきまつはれ奉り給ふさまいとうつくし。白きうすものにからの小紋の紅梅の御ぞの裾、いと長くしどけなげにひきやられて御身はいとあらはにてうしろのかぎりに着なし給へるさまは、例のことなれどいとらうたげにしろくそびやかに柳をけづりてつくりたらむやうなり。かしらは露草して殊更に色どりたらむ心ちして口つきうつくしうにほひ、まみのびらかに耻しうかをりたるなどは猶いとよく思ひ出でらるれど、かれはいとかやうにきははなれたる淸らはなかりしものをいかでかゝらむ、宮にも似奉らず今より氣高くものものしうさまことに見え給へる氣色などは、我が御かゞみのかげにも似げなからず見なされ給ふ。僅に步みなどし給ふ程なり、このたかうなのらいしになにともしらず立ちよりていとあわたゞしうとりちらしてくひかなぐりなどしたまへば「あならうがはしや。いとふびんなり。かれとりかくせ。くひものに目とゞめ給ふと物いひさがなき女房もこそいひなせ」とて笑ひ給ふ。かきいだき給ひて「この君のまみのいと氣色あるかな。ちひさきほどのちごを數多見ねばにやあらむ、かばかりの程は唯いはけなきものとのみ見しを、今よりいとけはひことなるこそ煩はしけれ。女宮ものし給ふめるあたりにかゝる人おひ出でゝ心苦しきことたがためにもありなむかし。あはれそのおのおのゝおひゆく末までは見もはてむとすら