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御けはひなり。「思ほしなげくは世のことわりなれど、又いとさのみはいかゞ。萬の事さるべきにこそは侍るめれ。さすがにかぎりある世になむ」となぐさめ聞え給ふ。この宮こそきゝしよりは心のおく見え給へ、哀げにいかに人わらはれなることをとりそへておぼすらむと思ふもたゞならねば、いたう心とゞめて御有樣も問ひ聞え給ひけり。かたちぞいとまほにはえ物し給ふまじけれど、いと見苦しうかたはらいたき程にだにあらずは、などて見るめにより人をもおもひあき又さるまじきに心をも惑はすべきぞ、さまあしや、唯心ばせのみこそいひもてゆかむにはやんごとなかるべけれとおぼす。「今は猶昔におもほしなずらへて疎からずもてなさせ給へ」など、わざとけさうびてはあらねどねんごろに氣色ばみて聞え給ふ。直衣姿いとあざやかにてたけだちものものしうそゞろかにぞ見え給ひける。かのおとゞは萬の事なつかしうなまめき、あてに愛敬づき給へることのならびなきなり。これはをゝしう華やかにあなきよらとふと見えたまふ。「にほひぞ人に似ぬや」とうちさゝめきて、「同じうはかやうにても出で入り給はましかば」など人々いふめり。「いうしやうぐんがつかに草はじめてあをし」とうち口ずさひて、それもいと近き世のことなれどさまざま近う遠う心みだるやうなりし世の中に高きも降れるもをしみあたらしがらぬはなきもうべうべしき方をばさるものにて怪しう情をたてたる人にぞ物し給ひければ、さしもあるまじきおほやけ人女房などの年ふるめきたるどもさへ戀ひかなしび聞ゆる。ましてうへには御遊などの折ごとにまづおぼし出でゝなむしのばせ給ひける。あはれ衞門督のといふことくさ、何事につけて