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ど、やむくすりならねばかひなきわざになむありける。女宮にも遂にえ對面し聞え給はであわの消えいるやうにてうせ給ひぬ。年比したの心こそねんごろに深くもなかりしか、大かたにはいとあらまほしくもてなしかしづき聞えてけなつかしう心ばへをかしううちとけぬさまにてすぐい給ひければつらきふしもことになし。唯かく短かりける御身にてあやしくなべての世すさまじく思ひたまふなりけりと思ひ出でたまふに、いみじうておぼし入りたるさまいと心ぐるし。御息所もいみじう人わらへに口惜しと見奉り歎き給ふ事かぎりなし。おとゞ北の方などはましていはむかたなく、われこそさきだゝめ、世のことわりなうつらいことゝ、こがれ給へど何のかひなし。尼宮はおほけなき心もうたてのみ覺されて世にながゝれとしもおぼさゞりしを、かくなど聞き給ふはさすがにいと哀なりかし。若君の御ことをさぞと思ひたりしもげにかゝるべき契にてや、思の外に心うき事もありけむとおぼしよるにさまざま物心ぼそうて打ちなかれ給ひぬ。三月になれば空の氣色も物うらゝかにてこの君いかの程になり給ひていとしろう美くしう、程よりはおよすげて物語などし給ふ。おとゞわたり給ひて「御心ちはさはやかになり給ひにたりや。いでやいとかひなくも侍るかな。例の御ありさまにてかく見なし奉らましかばいかに嬉しう侍らまし。心うくおぼしすてけること」と淚ぐみて恨み聞え給ふ。日々に渡り給ひて今しもやんごとなく限なきさまにもてなし聞え給ふ。御いかにもちひ參らせ給はむとて、かたち殊なる御さまを人々「いかに」など聞えやすらへど、院わたらせ給ひて「何か女に物し給はゞこそ同じすぢにていまいましくもあ