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とそひおはすればおのづからとりはづして、見奉り給ふやうもあらむに、味氣なしとおぼして「かの宮にとかくして今一度まうでむ」とのたまふを更に許し聞え給はず。誰にもこの宮の御事を聞えつけ給ふ。初より母御息所はをさをさ心ゆき給はざりしを、このおとゞのゐたちねんごろに聞え給ひて志深かりしにまけ給ひて、院にもいかゞはせむとおぼし許しけるを、二品の宮の御事をおもほし亂れける序に、なかなかこの宮は行くさきうしろやすくまめやかなるうしろみまうけ給へりとのたまはすと聞き給ひしをかたじけなく思ひ出づ。かくて見捨て奉りぬるなめりと思ふにつけてはさまざまにいとほしけれど、心より外なる命なれば堪へぬ契うらめしうて、おぼし歎かれむが心苦しきこと「御志ありてとぶらひ物せさせ給へ」と母上にも聞え給ふ。「いであなゆゝし。後れ奉りてはいくばく世にふべき御身とて、かうまで行くさきの事をばのたまふ」とて泣きにのみなき給へばえ聞えやり給はず、左大辨の君にぞ大方の事どもは委しう聞えつけ給ふ。心ばへのどかに善くおはしつる君なれば、弟の君達も又末々のわかきは親とのみ賴み聞え給へるに、かう心ぼそうのたまふを悲しと思はぬ人なく、殿のうちの人もなげく。おほやけもをしみ口をしがらせ給ふ。かくかぎりと聞しめして俄に權大納言になさせ給へり。よろこびに思ひおこして今一たびも參り給ふやうもやあるとおぼしのたまはせけれど、更にえためらひやり給はで、苦しき中にもかしこまり申し給ふ。おとゞもかく重き御おぼえを見給ふにつけても、いよいよ悲しうあたらしとおぼし惑ふ。大將の君常にいと深う思ひ歎きとぶらひ聞え給ふ。御悅にもまづまうで給へり。この