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あはつけく心づきなきことなり。みづからの心より離れてあるべきにもあらぬを思ふ心より外に人にも見え宿世の程定められむなむ、いとかろがろしく身のもてなしありさまおしはからるゝことなるを、怪しく物はかなき心ざまにやと見ゆめる御さまなるを、これかれの心にまかせてもてなし聞ゆる〈なイ〉さやうなる事の世にもり出でむこといと憂きことなり」など、見捨てまつり給はむのちの世をうしろめたげに思ひ聞えさせ給へれば、いよいよ煩はしくおもひあへり。「今すこしものをも思ひ知り給ふ程まで見過ぐさむとこそは年頃念じつるを、深きほ意も遂げずなりぬべき心地のするに思ひ催されてなむ。かの六條のおとゞはげにさりともものゝ心えてうしろ安き方はこよなかりなむを、かたがたに數多ものせらるべき人々を知るべきにもあらずかし。とてもかくても人の心からなり。のどかにおち居て大かたの世のためしとも、うしろ安き方は並びなくものせらるゝ人なり。さらでよろしかるべき人誰ばかりかはあらむ。兵部卿宮人がらはめやすしかし。同じすぢにてこと人とわきまへおとしむべきにはあらねど、あまりいたくなよびよしめく程に、重き方おくれて少しかろびたる覺えや進みにたらむ。なほさる人はいとたのもしげなくなむある。又大納言の朝臣の家づかさのぞむなる、さるかたにものまめやかなるべきことにはあなれどさすがにいかにぞや。さやうにおしなべたるきはゝ猶めざましくなむあるべき。昔もかやうなるえらひには何事も人にことなる覺えあるに、ことよりてこそありけれ。唯ひとへにまたなく用ゐむばかりを、賢きことに思ひ定めむはいと飽かず口惜しかるべきわざになむ。右衞門督のしたにわぶな