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えさせ給ふにさぶらふ人々は仕うまつるかぎりこそ侍らめ。大方の御心おきてにしたがひ聞えてさかしきしも人もなびき侍ふこそたよりあることには侍らめ。取り立てたる御うしろみものし給はざらむは猶心細きわざになむ侍るべき」と聞ゆ。「しか思ひたどるによりなむ。御子達の世づきたる有樣はうたてあはあはしきやうにもあり。又高ききはといへども女は男に見ゆるにつけてこそくやしげなることもめざましき思ひも、おのづからうちまじるものなめれど、かつは心苦しく思ひ亂るゝを、又さるべき人に立ちおくれて賴むかげどもに別れぬるのち心を立てゝ世の中に過ぐさむことも、昔は人の心たひらかにて世に許さるまじき程のことをば思ひ及ばぬものとならひたりけむ。今の世にはすきずきしく亂りがはしきことも、るゐに觸れて聞ゆめりかし。昨日まで高き親の家にあがめられかしづかれし人のむすめの、今日はなほなほしく降れるきはのすきものどもになほたちあざむかれて、なき親のおもてをふせ影を辱むるたぐひ多く聞ゆる、いひもて行けば皆おなじことなり。程々につけて宿世などいふなることは知りがたきわざなればよろづにうしろめたくなむ。總て惡しくも善くもさるべき人の心に許し置きたるまゝにて世の中を過ぐすは宿世宿世にて後の世に衰へあるときもみづからのあやまちにはならず。ありへてこよなきさいはひあり、めやすきことになるをりは、かくてしもあしからざりけりと見ゆれど、なほたちまちにふと打ち聞きつけたる程は、親に知られずさるべき人も許さぬに心づからの忍びわざし出でたるなむ、女の身にはますことなききずと覺ゆるわざなる。なほなほしきたゞ人のなからひにてだに