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給はらむ。怪しくたゆくおろかなる本性にてことにふれておろかにおぼさるゝ事ありつらむこそくやしく侍れ。かゝる命の程を知らで行く末長くのみ思ひ侍りける事」となくなく渡り給ひぬ。宮はとまり給ひていふ方なくおぼしこがれたり。大殿に待ち受け聞え給ひてよろづにさわぎ給ふ。さるはたちまちにおどろおどろしき御心地のさまにもあらず、月比物などを更に參らざりけるにいとゞはかなきかうじなどをだにふれ給はず、唯やうやう物に引きいるゝやうに見え給ふ。さるときのいうそくのかくものし給へば世の中憎みあたらしがりて御とぶらひに參り給はぬ人なし。內よりも院よりも御とぶらひしばしば聞えつゝ、いみじく惜みおぼし召したるにも、いとゞしき親達の御心のみ惑ふ。六條院にもいと口惜しきわざなりとおぼし驚きて、御とぶらひに度々ねんごろに父おとゞにも聞え給ふ。大將はましていとよき御中なれば氣近く物し給ひつゝいみじく歎きありき給ふ。御賀は廿五日になりにけり。かゝる時のやんごとなき上達部の重く煩ひ給ふに、おやはらからあまたの人々さるたかき御なからひのなげきしをれ給へる比ほひぞ物すさまじきやうなれど、月々に滯りつることだにあるを、さて止むまじきことなればいかでかはおぼしとゞまらむ、女宮の御心のうちをぞいとほしく思ひ聞えさせ給ふ。例のごじふじのみずきやう又かのおはします御寺にもまかびるさなの。