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み陵王、大將殿の太郞ぎみ落蹲、さてはたいへいらく喜春樂などいふ舞どもをなむ、同じ御なからひのきんだちおとなだちなど舞ひける。暮れゆけば御簾あげさせ給ひて物の興まさるにいとうつくしき御うまごの君達のかたちすがたにて舞のさまも世に見えぬ手を盡して、御師どもゝおのおの手のかぎりを敎へ聞えけるに、深きかどかどしさを加へて珍らかに舞ひ給ふを、いづれをもいとらうたしとおぼす。老ひ給へる上達部たちは皆淚おとし給ふ。式部卿の宮も御うまごをおぼして御鼻の色づくまでしほたれさせ給ふ。あるじの院「過ぐる齡にそへてはゑひなきこそとゞめ難きわざなりけれ。衞門督心とゞめてほゝゑまるゝいと心恥しや。さりとも今暫しならむさかさまにゆかぬ年月よ、老いはえ遁れぬわざなり」とてうち見やり給ふに、人よりけにまめだちくつして誠に心地もいと惱ましければ、いみじき事もめもとまらぬ心地する人をしもさしわきて空醉ひしつゝかくの給ふ。たはぶれのやうなれどいとゞ胸つぶれてさかづきのめぐりくるも頭いたく覺ゆれば氣色ばかりにてまぎらはすを御覽じとがめて持たせながらたびたびしひ給へばはしたなくてもて煩ふさま、なべての人に似ずをかし。心地かき亂りて堪へがたければまだ事もはてぬに罷で給ひぬるまゝに、いといたく惑ひて、例のいとおどろおどろしき醉にもあらぬを、いかなればかゝるならむ、つゝましと物を思ひつるにけののぼりぬるにや、いとさいふばかりおくすべき心よわさとは覺えぬを、いふかひなくもありけるかなとみづから思ひ知らる。しばしのゑひの惑ひにもあらざりけり。やがていといたく煩ひ給ふ。おとゞ母北の方おぼしさわぎてよそよそにてい