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のものは見給はず。衞門督をかゝることの折もまじらはせざらむはいとはえなくさうざうしかるべき。うちにも人怪しとかたぶきぬべきことなれば參り給ふべきよしありけるを、重く煩ふよし申して參らず。さるはそこはかと苦しげなる病にもあらざなるを、思ふ心のあるにやと心苦しくおぼして取りわきて御せうそこつかはす。「ちゝおとゞもなどかかへさひ申されける。ひがひがしきやうに院にも聞し召さむを、おどろおどろしき病にもあらず。助けて參り給へ」とそゝのかし給ふにかく重ねてのたまへれば苦しと思ふ思ふ參りぬ。上達部などもまだ集ひ給はぬ程なりけり。例の氣近き御簾の內に入れ給ひてもやの御簾おろしておはします。實にいといたくやせやせにあをみて例もほこりかに花やぎたる方は弟の君達にはもてけたれていと用意ありがほにしづめたるさまぞことなるを、いとゞしづめてさぶらひ給ふさま、などかは御子達の御傍にさし並べたらむに更にとがあるまじきを、たゞことのさまの誰も誰もいと思ひやりなきこそいと罪許しがたけれなど、御目とまれどさりげなくいとなつかしく「そのことゝなくて對面もいと久しくなりにけり。月比はいろいろのびやうざをのみあつかひ、心のいとまなきほどに院の御賀のためこゝに物し給ふみこのほふじ仕うまつり給ふべくありしを、つきづき滯ることしげくてかく年もせめつれば、え思ひのごとくもしあへでかたのごとくなむ。いもひの御鉢參るべきを、御賀などいへばことごとしきやうなれど、家に生ひ出づるわらはべの數多くなりにけるを御覽ぜさせむとて舞などならはしはじめし、そのことをだにわたさむとて拍子とゝのへむこと、又誰にかはと思ひめぐらし