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とはこの月かくて過ぎぬ。二の宮の御いきほひことにて參り給ひけるをふるめかしき御身ざまにて立ちならび顏ならむもはゞかりある心ちしけり。霜月はみづからの御忌月なり。年のをはりはたいと物さわがし。又いとゞこの御姿も見苦しく待ち見給はむをと思ひ侍れど、さりとてさのみ延ぶべきことにやは。「むつかしく物おぼし亂れずあきらかにもてなし給ひてこのいたくおも瘦せ給へるつくろひ給へ」などいとらうたしとさすがに見奉り給ふ。衞門督をば何ざまの事にもゆゑあるべきをりふしには必ず殊更にまつはし給ひつゝのたまはせあはせしを絕えてさる御せうそこもなし。人あやしと思ふらむとおぼせど、見むにつけてもいとゞほれぼれしきかたはづかしく見むにはまた我が心もたゞならずやとおぼし返されつゝ、やがて月比參り給はぬをもとがめなし。大方の人は猶例ならず惱みわたりて院にはた御遊びなどなき年なればとのみ思ひわたるを大將の君ぞ、あるやうあることなるべし、すきものは定めて我が氣色とりしことには忍ばぬにやありけむと思ひよれど、いとかくさだかに殘りなきさまならむとは思ひより給はざりけり。十二月になりにけり。十餘日と定めてまひどもならし殿の內ゆすりてのゝしる。二條院の上はまだわたり給はざりけるをこの試樂によりてぞえしづめはてゞ渡り給へる。女御の君も里におはします。このたびの御子は又男にてなむおはしましける。すぎすぎいとをかしげにておはするを、明暮もてあそび奉り給ふになむ過ぐるよはひのしるし嬉しくおぼされける。試樂に右大臣殿の北の方もわたり給へり。大將の君丑寅の町にてまづうちうちに調樂のやうに、明暮遊びならし給ひければかの御かたはお前