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聞え給ひて「今はのとぢめにもこそあれ、今さらにおろかなるさまを見えおかれじとてなむいはけなかりし程よりあつかひそめて見放ちがたければかう月比よろづを知らぬさまにすぐし侍るぞ、おのづからこの程すぎば見なほし給ひてむ」など聞え給ふ。かく氣色も知り給はぬもいとほしく心苦しくおぼされて、宮は人知れず淚ぐましくおぼさる。かんの君はましてなかなかなる心地のみ增りて起き臥し明し暮し侘び給ふ。祭の日などは物見に爭ひ行く君達かきつれていひそゝのかせど、なやましげにもてなしてながめ臥し給へり。女宮をばかしこまりおきたるさまにもてなし聞えて、をさをさ打ち解けても見え奉り給はず。我方に離れ居ていとつれづれに心ぼそくながめ給へるに、わらはべのもたるあふひを見給ひて、

 「くやしくぞつみをかしけるあふひ草神のゆるせるかざしならぬに」と思ふもいとなかなかなり。世の中靜ならぬ車の音などをよその事に聞きて人やりならぬつれづれに暮し難くおぼゆる、女宮もかゝる氣色のすさまじさも見知られ給へば、何事とは知り給はねど耻しくめざましきに物思はしくぞおぼされける。女房など物見に皆出でゝ人ずくなにのどやかなれば打ちながめて、箏の琴なつかしくひきまさぐりておはするけはひも、さすがにあてになまめかしけれど、同じくば今ひときは及ばざりけるすくせよとなほおぼゆ。

 「もろかづら落葉を何にひろひけむなはむつまじきかざしなれども」と書きすさび居たるいとなめげるしりうごとなりかし。おとゞの君はまれまれ渡り給ひてえふとも立ちかへり給はずしづ心なくおぼさるゝに、絕え入り給ひぬとて人參りたれば更に何事もおぼしわ