Page:Kokubun taikan 02.pdf/103

提供:Wikisource
このページは校正済みです

嘆き給ふ。はかなき御くだものをだにいと物うくし給ひて、起きあがり給ふこと絕えて日比へぬ。いかならむとおぼし騷ぎて、御いのりども數知らず始めさせ給ふ。僧めして御かぢなどせさせ給ふ。そこところともなくいみじく苦しくしたまひて、胸は時々おこりつゝ煩ひ給ふさま堪へ難く苦しげなり。さまざまの御つゝしみ限なけれど、しるしも見えず。重しと見れどおのづからをこたるけぢめあらばたのもしきを、いみじく心ぼそく悲しと見奉り給ふに、ことごとおぼされねば御賀の響もしづまりぬ。かの院よりもかく煩ひ給ふよし聞し召して、御とぶらひいとねんごろにたびたび聞え給ふ。同じさまにて二月も過ぎぬ。いふかぎりなくおぼし歎きて試に所をかへ給はむとて二條院に渡し奉り給ひつ。院の內ゆすり滿ちて思ひ歎く人々多かり。冷泉院もきこし召しなげく。この人うせ給はゞ院も必ず世を背く御ほい遂げ給ひてむと、大將の君なども心盡して見奉りあつかひ給ふ。御ずほふなどは、大方のをばさるものにて、取り分きて仕うまつらせ給ふ。聊物おぼしわくひまには、「聞ゆる事をさも心うく」とのみ怨み聞え給へど「限ありて別れはて給はむよりも目の前に我が心と窶しすて給はむ御有樣を見ては、更に片時たふまじくのみ惜しく悲しかるべければ、昔よりみづからぞかゝるほい深きを、とまりてさうざうしくおぼされむ心苦しさにひかれつゝすぐすを、さかさまに打ち捨て給はむとやおぼす」とのみ惜み聞え給ふに、げにいとたのみがたげによわりつゝ限のさまに見え給ふ折々多かるを、いかさまにせむとおぼし惑ひつゝ宮の御方にもあからさまにわたり給はず。御琴どもゝ凄まじくて皆ひき込められ、院のうちの人々は皆