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る心地して、こし方の事なども人知れず思ひ出でけり。あづかりいみじくけいめいしてありく氣色にこの御ありさま知りはてぬ。ほのぼのと物見ゆるほどにおり給ひぬめり。かりそめなれど淸げにしつらひたり。御供に人も侍はざりけり。「ふびんなるわざかな」とて、睦しきしもけいしにて殿にも仕うまつるものなりければ參りよりて「さるべき人召すべきにや」など申さすれど「殊更に人くまじきかくれが、求めたるなり。更に心より外に漏すな」と口がためさせ給ふ。御かゆなど急ぎ參らせたれど取りつぐ御まかなひうち合はず。まだ知らぬ事なる御旅寢に、おきなか川と契り給ふより外のことなし。日たくる程に起き給ひて格子手づから上げ給ふ。いと痛く荒れて人目もなくはるばると見渡されでこだちいと疎ましく物ふりたり。け近き草木などは殊に見所なく、皆秋の野らにて池もみくさに埋れたればいとけうとげになりにける所かな。べちなふのかたにぞざうしなどして人住むべかめれど、こなたははなれたり。「け疎くもなりにける所かな。さりとも鬼なども、我をば見許してむ」との給ふ。顏は猶隱し給へれど、女の、いとつらしと思ふべければ、「げにかばかりにてへだてあらむも事のさま違ひたりとおぼして、
「夕露にひもとく花はたまほこの便に見えしえにこそありけれ。露のひかりやいかに」との給へば、しり目に見おこせて、
「ひかりありと見し夕顏のうは露はたそがれどきのそらめなりけり」とほのかにいふ。をかしとおぼしなす。げにうちとけ給へるさま世になく所がらまいてゆゝしきまで見えたま