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Page:Kokubun taikan 01.pdf/72

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ふ。「つきせずへだて給へるつらさに顯さじと思ひつるものを、いまだに名のりし給へ。いとむくつけし」との給へど「あまの子なれば」とてさすがにうちとけぬさまいとあいだれたり。「よしこれも我からなめり」と怨みかつは語らひ暮し給ふ。惟光尋ねきこえて御くだものなど參らす。右近がいはむとさすがにいとほしければ、近くもえ侍ひよらず。かくまでたどりありき給ふもをかしう、さもありぬべき有樣にこそはと推し量らるゝにも、我がいとよく思ひよりぬべかりしことを讓り聞えて心ひろさよなどめざましうぞおもひをる。たとしへなく靜なる夕の空を眺め給ひて「奧の方は闇う物むつかし」と女は思ひたればはしのすだれを上げて添ひ臥し給へり。夕ばえを見かはして女もかゝるありさまを思の外に怪しき心地はしながら萬のなげき忘れて少しうちとけ行く氣色いとらうたし。つと御傍に添ひ暮して物をいと恐しと思ひたるさま若う心苦し。格子疾くおろし給ひて、大となぶら參らせて名殘なくなりにたる御有樣にて、「猶心の中のへだて殘し給へるなむつらき」と怨み給ふ。うちに、いかに求めさせ給ふらむを、いづこに尋ぬらむと覺し遣りて、かつはあやしの心や。六條わたりにもいかに思ひ亂れたまふらむ。怨みられむも苦しうことわりなりと、いとほしきすぢはまづ思ひ聞え給ふ。何心もなきさしむかひを哀とおぼすまゝにあまり心深く見る人も苦しき御有樣を、少し取り捨てばやとぞ思ひくらべられ給ひける。宵過ぐるほどに少し寢入り給へるに、御枕がみにいとをかしげなる女居て、「おのがいとめでたしと見奉るをば尋ねもおもほさでかくことなる事なき人をゐておはして時めかし給ふこそいとめざましくつらけ