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Page:Kokubun taikan 01.pdf/582

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るに池の鏡のどかにかすみ渡れり。げにまだほのかなる木ずゑどものさうざうしき頃なるに、いといたう氣色ばみ橫たはれたる松の木高き程にはあらぬにかゝれる花のさま、世の常ならずおもしろし。例の辨の少將聲いと懷かしくてあしがきをうたふ。おとゞ「いとけやけうも仕うまつるかな」とうち亂れ給ひて「年經にけるこの家の」とうちくはへ給へる御聲いとおもしろし。をかしき程に亂りがはしき御遊にて物思ひ殘らずなりぬめり。やうやう夜更け行く程にいたうそらなやみをして「みだり心地いと堪へがたうてまかでむ空もほどほどしくこそ侍りぬべけれ。とのゐ所讓り給ひてむや」と中將に憂へ給ふ。おとゞ「あそんや、御休所もとめよ。おきないたくゑひ進みてむらいなればまかり入りぬ」といひ捨てゝ入り給ひぬ。中將「花のかげの旅寢よ。いかにぞや苦しきしるべにぞ侍るや」といへば「松に契れるはあだなる花かは。ゆゝしや」と責め給ふ。中將は心のうちにねたのわざやと思ふ所あれど、人ざまの思ふさまにめでたきに、かうもありはてなむと心かけわたることなれば、うしろやすく導きつ。男君は夢かと覺え給ふにも我が身いとゞいつかしうぞ覺え給ひけむかし。女はいと恥かしと思ひしみて物し給ふも、ねびまされる御有樣いとゞあかぬ所なくめやすし。「世のためしにもなりぬべかりつる身を心もてこそかくまでもおぼし許さるめれ。哀を知り給はぬもさまことなるわざかな」と恨み聞え給ふ。「少將の進み出しつるあしがきのおもむきは耳とゞめ給ひつや。いたきぬしかなゝ〈如原〉。河口のとこそさしいらへまほしかりつれ」とのたまへば、女いと聞きにくしとおぼして、