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Page:Kokubun taikan 01.pdf/581

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て夏に咲きかゝる程なむ怪しく心にくゝ哀におぼえ侍る。色もはた懷かしきゆかりにもしつべし」とてうちほゝゑみ給へる、けしきありて匂ひきよげなり。月はさし出でぬれど花の色さだかにも見えぬ程なるをもてあそぶに、心をよせて大みきまゐり御あそびし給ふ。おとゞは程なくそらゑひをし給ひてみだりがはしくしひゑはし給ふをさる心していたうすまひ惱めり。「君は末の世にはあまるまで天の下のいうそくにものし給ふめるを、よはひふりぬる人思ひ捨て給ふなむつらかりける。文籍にも家禮といふことあるべくや。なにがしのをしへもよく思し知るらむと思ひ給ふるをいたう心なやまし給ふと恨み聞ゆべくなむ」などのたまひてゑひなきにやをかしき程に氣色ばみ給ふ。「いかで昔を思ひ給へ出づる御かはりどもには身を捨つるさまにもとこそ思ひ給へ知り侍るを、いかに御覽じなすことにかは侍らむ。もとよりおろかなる心のをこたりにこそ」と畏まり聞え給ふ。御ときよくさうどきて「藤のうら葉の」とうちずんじ給へる御氣色をたまはりて、頭中將花の色濃く殊に房長きを折りてまらうどの御盃にくはふ。とりてもてなやむに、おとゞ、

 「紫にかごとはかけむ藤の花まつよりすぎてうれたけれども」。宰相盃を持ちながら氣色ばかり拜し奉り給ふさま、いとよしあり。

 「いくかへり露けき春をすぐしきて花のひもとくをりにあふらむ」。頭中將にたまへば、

 「たをやめの袖にまがへる藤の花見るひとからや色もまさらむ」。つぎつぎに皆ずんながるめれど、ゑひのまぎれにはかばかしからでこれよりまさらず。七日の夕月夜かげほのかな