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Page:Kokubun taikan 01.pdf/580

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とのたまふ。御心おごりこよなうねたげなり。「さしも侍らじ。對の前の藤常よりもおもしろく咲きて侍るなるを、靜なるころほひなれば遊せむなどにや侍らむ」と申し給ふ。「わざと使さゝれたりけるを早う物し給へ」と許し給ふ。いかならむとしたには苦しくたゞならず。「直衣こそあまり濃くてかろびためれ。非參議のほど何となき若人こそふた藍はよけれ。ひきつくろはむや」とてわが御れうの心ことなるにえならぬ御ぞども具して御供にもたせて奉れ給ふ。我が御方にて心遣ひいみじくけさうしてたそがれも過ぎ心やましき程にまうで給へり。あるじの君達中將をはじめて七八人うちつれて迎へ入れ奉る。いづれともなくをかしきかたちどもなれど、なほ人にすぐれてあざやかに淸らなるものから、懷しうよしづき恥しげなり。おとゞおましひき繕はせなどし給ふ御用意おろかならず。御かうぶりなどし給ひて出で給ふとて北の方の若き女房などに「のぞきて見給へ。いとかうざくにねびまさる人なり。用意などいと靜かにものものしや。あざやかにぬけ出でおよすげたる方は父おとゞにも優りざまにこそあめれ。かれは唯いとせちになまめかしう愛ぎやうづきて、見るにゑましく世の中忘るゝ心地ぞし給ふ。おほやけざまは少したはれてあざれたる方なりし、ことわりぞかし。これはざえのきはもまさり、心用ゐをゝしくすくよかにたらひたりと、世に覺えためり」などのたまひてひきつくろひてぞ對面し給ふ。物まめやかにうべうべしき御物語は少しばかりにて花のけうに移り給ひぬ。「春の花いづれとなく皆開け出づる色ごとに目驚かぬはなきを、心短くうち捨てゝ散りぬるが恨めしうおぼゆるころほひ、この花のひとりたちたくれ