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Page:Kokubun taikan 01.pdf/570

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 「花の香をえならぬ袖に移しもてことあやまりといもやとがめむ」とあれば、「いとくしたりや」と笑ひ給ふ。御車かくるほどに追ひて、

 「めづらしと故鄕人も待ちぞ見む花のにしきを着てかへるきみ。又なきことゝおぼさるらむ」とあればいといとうからがり給ふ。次々の君だちにもことごとしからぬさまに細長小袿などかづけさせたまふ。かくて西のおとゞに戌の時にわたり給ふ。宮のおはします西のはなちいでをしつらひて、みぐしあげの內侍などもやがてこなたに參れり。うへもこの序に中宮に御對面あり。御方々の女房おしあはせたる數しらず見えたり。子の時に御裳奉る。おほとなぶらほのかなれど御けはひいとめでたしと宮は見奉れ給ふ。おとゞ「覺しすつまじきをたのみにてなめげなる姿を進み御覽ぜられ侍るなり。後の世のためしにやと心せばく忍び思ひ給ふる」など聞え給ふ。宮「いかなるべき事とも思う給へわき侍らざりつるを、かうことごとしくとりなさせ給ふになむなかなか心おかれぬべく」とのたまひけつ程の御けはひ、いと若く愛ぎやうづきたるに、おとゞもおぼすさまにをかしき御けはひどものさしつどひ給へるをあはひめでたくおぼさる。母君のかゝる折だにえ見奉らぬをいみじと思へりし心苦しうてまうのぼらせやせましとおぼせど、人の物いひをつゝみて過ぐし給ひつ。かゝる所の儀式はよろしきにだにいと事多くうるさきを、片はしばかり例のしどけなくまねばむもなかなかにやとてこまかに書かず。

春宮の御元服は廿餘日の程になむありける。いとおとなしくおはしませば人のむすめどもきほひ參らすべきことを心ざしおぼすなれど、この殿の