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Page:Kokubun taikan 01.pdf/569

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のさうぞくなどして殿上人などあまた參りてをかしき笛の音ども聞ゆ。內のおほいとのゝ頭中將辨少將などもけざんばかりにてまかづるをとゞめさせ給ひて御ことゞもめす。宮の御前に琵琶、おとゞに筆の御琴參りて、頭中將和琴たまはりて華やかに搔きたてたる程いとおもしろく聞ゆ。宰相の中將橫笛ふき給ふ、折にあひたる調子雲井とほるばかり咲きたてたり。辨少將拍子とりて梅がえいだしたる程いとをかし。わらはにて韻ふたぎの折高砂うたひし君なり。宮もおとゞもさしいらへし給ひて、ことごとしからぬものからをかしき夜の御あそびなり。御かはらけまゐるに、宮、

 「鶯のこゑにやいとゞあくがれむ心しめつる花のあたりに。千代も經ぬべし」ときこえ給へば、

 「色も香もうつるばかりにこの春は花さく宿をかれずもあらなむ」。頭中將にたまへば、とりて宰相中將にさす。

 「鶯のねぐらの枝もなびくまでなほふきとほせよはの笛たけ」。宰相中將、

 「心ありて風のよくめる花の木にとりあへぬまで吹きやよるべき」。「なさけなく」と皆うち笑ひ給ふ。辨少將、

 「霞だに月と花とをへたてずばねぐらの鳥もほころびなまし」。まことに明けがたになりてぞ宮かへり給ふ。御贈物にみづからの御料の御直衣の御よそひ一くだり、手ふれ給はぬたきもの二壺そへて御車に奉らせたまふ。宮、