コンテンツにスキップ

Page:Kokubun taikan 01.pdf/564

提供:Wikisource
このページは校正済みです

なし。その程のありさまはいはずとも思ひやりつべき事ぞかし。父おとゞもおのづから思ふやうなる御宿世とおぼしたり。わざとかしづき給ふ君達にも御かたちなどは劣り給はず、頭中將もこのかんの君をいとなつかしきはらからにてむつび聞え給ふものから、さすがなる御氣色うちまぜつゝ、宮仕にかひありて物し給はましものをと、この若君の美くしさにつけても今まで御子たちのおはせぬ嘆きを見奉るにいかにめいぼくあらましとあまりことをぞ思ひての給ふ。公ごとはあるべきさまにしり給ひなどしつゝ參り給ふ事ぞやがてかくてやみぬべかめり。さてもありぬべきことなりかし。まことやかのうちのおほい殿の御娘のないしのかみのぞみし君も、さるものゝ僻なれば色めかしうさまよふ心さへそひてもてわづらひ給ふ。女御もつひにあはあはしき事この君ぞひき出でむと、ともすれば御胸つぶし給へどおとゞの「今はな交らひそ」と、制しの給ふをだに聞き入れず交らひ出でゝ物し給ふ。いかなる折にかありけむ、殿上人あまたおぼえ殊なるかぎりこの女御の御方に參りて物のねなどしらべ懷かしきほどの拍子うち加へて遊ぶ。秋の夕のたゞならぬに、宰相中將もよりおはして例ならず亂れて物などのたまふを、人々めづらしがりて「猶人よりことにも」とめづるに、このあふみの君人々の中をおし分けて出で居給ふ。「あなうたてや。こはなぞ」とひきいるれどいとさがなげににらみてはりゐたればわづらはしくて、あぶなきことやのたまひ出でむとつきかはすに、この世にめなれぬまめ人をしも、「これぞなこれぞな」とめでゝさゝめきさわぐ聲いとしるし。人々いと苦しと思ふに聲いとさわやかにて、