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まひぬ。いつしかと心もとながらせたまひて、急ぎ參らせて御覽ずるに珍らかなるちごのおほんかたちなり。一のみこは右大臣の女御のおほん腹にてよせ重く疑なきまうけの君と世にもてかしづき聞ゆれどこのおほん匂ひには並び給ふべくもあらざりければ大方のやんごとなき御おもひにてこの君をば私物におぼほしかしづきたまふこと限なし。始よりおしなべての上宮仕したまふべききはにはあらざりき。おぼえやんごとなくしやうずめかしけれどわりなくまつはさせたまふあまりに、さるべき御遊の折々何事にも故ある事の節々にはまづ參う上らせたまふ。ある時には大殿籠りすぐしてやがてさぶらせたまふなど、あながちにおまへ去らずもてなさせたまひし程に、おのづから輕き方にも見えしを、この皇子生れたまひて後はいと心殊に思ほしおきてたれば、坊にも善うせずはこの皇子の居たまふべきなめりと、一のみこの女御は覺し疑へり。人より先に參りたまひてやんごとなき御思ひなべて思ひ聞えさせたまひける。畏き御蔭をば賴み聞えながら、おとしめ疵を求め給ふ人は多く我が身はかよわく、ものはかなき有樣にてなかなかなる物思をぞしたまふ。御局は桐壷なり。數多のおほん方々を過ぎさせたまひつゝ隙なき御まへわたりに人の御心を盡したまふも、實にことわりと見えたり。參う上りたまふにも、あまり打ち頻る折々は內階、渡殿、此處彼處の道に怪しきわざをしつゝ、御送り迎への人のきぬの裾堪へ難うまさなきことどもあり。又ある時はえさらぬめだうの戶をさしこめ此方彼方心を合せてはしたなめ煩はせ給ふ時も多