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りや。まづ御文奉れ給ふ。「葦垣のま近き程には侍ひながら今まで影ふむばかりのしるしも侍らぬは勿來の關をやすゑさせ給ひつらむとなむ。知らねども武藏野といへば、かしこけれども、あなかしこやあなかしこや」と點がちにて、うらには「誠にや暮にも參りこむと思ひ給へたつはいとふにはゆるにや。いでやいでや怪しきはみなせ川にを」とて、又はしにかくぞ
「草わかみひたちの海のいかゞさきいかであひ見むたごの浦浪。大川水の」と靑き色紙ひとかさねに、いとさうがちにいかれる手のそのすぢとも見えずたゞよひたる書きざまも、しもじながにわりなくよしばめり。くだりの程はしざまにすぢかひてたふれぬべく見ゆるを、打ちゑみつゝ見て、さすがにいと細く小く卷き結びて瞿麥の花につけたり。ひすましわらはゝしもいと馴れてきよげなる今まゐりなりけり。女御の御方の臺盤所によりて、「これ參らせ給へ」といふ。しもづかへ見知りて北の對に侍らふわらはなりけりとて御文取りいる。たいふの君といふ人もて參りてひきときて御覽ぜさす。女御ほゝゑみて打ち置かせ給へるを、中納言の君といふいと近う侍ひてそばそば見けり。「いと今めかしき御文の氣色にも侍るかな」とゆかしげに思ひたれば、「さうの文字はえ見知らねばにやあらむ。本末なくも見ゆるかな」とて給へり。「返事、かくゆゑゆゑしからずば輕しとや思ひおとされなむや」とて、「書き給へ」と讓り給ふ。もて出でゝこそあらね、若き人々はものをかしうて皆うち笑ひぬ。御返り乞へば、「をかしきことのすぢにのみまつはれて侍るめれば聞えさせにくゝこそ。せんじがきめきては、いとほしからむ」とて、唯御文めきてかく。「近きしるしなきおぼつかなさは