コンテンツにスキップ

Page:Kokubun taikan 01.pdf/498

提供:Wikisource
このページは校正済みです

ごとしくは何かは、さもと思はれば今日にても」との給ひ棄てゝ渡り給ひぬ。よき四位五位たちのいつき聞えてうちみじろぎ給ふにもいといかめしき御いきほひなるを見送り聞えて、「いであなめでたの我が御おやゝ。かゝりける種ながら怪しきこ家におひ出でけること」とのたまへば、五節「あまりことごとしう恥しげにぞおはする。よろしき親の思ひかしづかむにぞ尋ね出でられ給はまし」といふもわりなしや。「例の君の、人のいふ事破り給ひてめざまし。今はひとつくちに詞なまぜられそ。あるやうあるべき身にこそあめれ」と腹立ち給ふかほやう、け近う愛敬づきてうち解けそぼれたるは、さる方にをかしう罪許されたり。唯いとひなびあやしきしも人の中におひ出で給へれば物いふさまも知らず、殊なる故なき詞をものどやかにおししづめていひ出したるは打ち開く耳異に覺え、をかしからぬ歌がたりをするもこわづかひつきづきしくて、殘りおもはせもとすゑ惜みたるさまに打ちずじたるは、深きすぢ覺えぬ程の打ち開きにはをかしかなりと耳にとまるかし。心深くよしある事をいひ居たりともよろしき心あらむとも聞ゆべくもあらず。あはつけきこわざまにのたまひ出づることはこはごはしく詞だみて我がまゝに誇りならひたるめのとのふところに習ひたるさまに、もてなしいと怪しきにやつるゝなりけり。いといふかひなくはあらず三十文字あまり、本末あはぬ歌口疾くうち續けなどし給ふ。「さて女御殿に參れとのたまへるをしぶしぶなるさまならばものしうもこそ思せ。よさりまうでむ。おとゞの君天下に覺すともこの御方々のすげなうもてなし給はむには、殿の中にはたてりなむや」との給ふ。御おぼえの程輕らかな