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しくは見えずいとらうたげにさゝやかなり。すき給へる肌つきもいと美くし。をかしげなる手つきして扇をも給へりけるながらかひなを枕にてうちやられたるみぐしのいと長くこちたくはあらねど、いとをかしきすゑつきなり。人々も物の後によりふしつゝ打ち休みたればふともおどろい給はず。扇をならし給へれば何心もなく見上げ給へるまみらうたげにて、つらつきの赤めるも親の御目にはいと美しう見ゆ。「うたゝねは諫め聞ゆるものを、などかいと物はかなきさまにては大殿籠りける。人々も近く侍らはであやしや。女は身を常に心づかひして守りたらむなむよかるべき、心安く打ち捨てたるさまにもてなしたる、しななきわざなり。さりとていとさかしく身かためて不動の陀羅尼よみ印つくりて居たらむもにくし。うつゝの人にもあまりけ遠く物隔てがましきなど氣高きやうとても人にくゝ心美しうはあらぬわざなり。おほきおとゞの后がねの姬君ならはし給ふなる敎は、萬の事に通はしなだらめてかどかどしきゆゑもつけじ、たどたどしくおぼめくこともあらせじと、ゆるゝかにこそおきて給ふなれ。げにさもあることなれど、人として心にもするわざにも、立てゝ靡く方はかたとあるものなればおひ出で給ふさまあらむかし。この君の人となり宮仕に出したて給はむ世の氣色こそいとゆかしけれ」などのたまひて「思ふやうに見奉らむと思ひしすぢは違ふやうになりにたる御身なれどいかで人笑はれならずしなし奉らむとなむ、人の上のさまざまなるを聞くごとに思ひ亂れ侍る。心みことにねんごろがらむ人のねぎごとに、なしばし靡き給ひそ。思ふさま侍る」などいとらうたしと思ひつゝ聞え給ふ。昔は何事をも深う思ひ知らで