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と思ひけり。おとゞの君の御心おきてのこまかにありがたうおはしますこといとかたじけなし。年の暮に御しつらひのこと人々のそうぞくなどやんごとなき御つらにおぼしおきてたり。かゝりとも田舍びたることやと山がつのかたにあなづり推しはかり聞え給ひて、てうじたる裳奉り給ふついでに、織物どものわれもわれもと手を盡しておりつゝもて參れる、細長小袿のいろいろさまざまなるを御覽ずるに、「いと多かりけるものどもかな。かたがたに恨みなくこそものすべかりけれ」とうへに聞え給へば、御匣殿に仕う奉れるもこなたにせさせ給へるも皆とうでさせ給へり。かゝるすぢはたいとすぐれて世になき色あひにほひを染めつけ給へば、ありがたしと思ひ聞え給ふ。こゝかしこのうちどのより參れる物ども御覽じくらべて濃き赤きなどさまざまをえらせ給ひつゝみそびつころもばこどもに入れさせ給ひておとなびたる上臈ども侍ひてこれは彼はと取りぐしつゝ入る。うへも見給ひて、「いづれおとりまさるけぢめも見えぬものどもなめるを、着給はむ人の御かたちに思ひよそへつゝ奉れ給へかし。着たるものゝ人のさまに似ぬはひがひがしくもありかし」とのたまへば、おとゞうち笑ひて、「つれなくて人のかたちおしはからむの御心なめりな。さていづれをとかおぼす」と聞え給へば、「それも鏡にてはいかでか」とさすがに耻らひておはす。紅梅のいと紋浮きたるえび染の御こうちき、今やう色のいとすぐれたるとはこの御料。櫻のほそながにつやゝかなるかい練とり添へては姬君の御料なり。あさはなだのかいふの織物織りざまなまめきたれど匂ひやかならぬにいと濃きかい練具して夏の御かたに、曇りなく赤きに山吹の