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の御ありさまはらばらの何ともあるまじき御子どもみなものめかしなしたて給ふを聞けば、かゝるした草たのもしくぞおぼしなりぬる。出づとてもかたみにやどる所も問ひかはしてもし又おひまどはしたらむ時と危く思ひけり。

右近が家は六條院近きわたりなりければ程遠からでいひかはすもたつき出で來ぬる心地しける。右近は大殿にまゐりぬ。この事をかすめ聞ゆるついでもやとて急ぐなりけり。御門ひき入るゝよりけはひことにひろびろとしてまかで參る車おほくまよふ。數ならで立ち出づるもまばゆき心地する玉のうてななり。その夜はおまへにも參らで思ひ臥したり。又の日よべ里より參れる上臈若人どものなかに取りわきて右近召し出づればおもだゝしくおぼゆ。おとゞも御覽じて、「などか里居は久しくしつる。例ならずやもめ人のひきたがへこまがへるやうもありかし。をかしき事などありつらむ」など、例のむつかしうたはぶれごとなどのたまふ。「まかでゝ七日に過ぎ侍りぬれどをかしき事は侍りがたくなむ。山ぶみし侍りてあはれなる人をなむ見奉りつけたりし」。「何人ぞ」と問ひ給ふ。ふと聞え出でむもまだうへに聞かせ奉らでとりわき申したらむをのちに聞き給ひては隔て聞えけるとや覺さむなど思ひ亂れて「今聞えさせ侍らむ」とて人々參れば聞えさしつ。おほとなぶらなどまゐりてうちとけならびおはします。御有樣どもいと見るかひ多かり。女君は廿七八になり給ひぬらむかし。盛に淸らにねびまさり給へり。少しほど經て見奉るは又このほどにこそにほひ加り給ひにけれと見え給ふ。かの人をいとめでたく劣らじと見奉りしかど、思ひなしにやなほこよなきにさいはひのあるとなきとへだてあるべき