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Page:Kokubun taikan 01.pdf/419

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へ瀧おとして秋の野を遙につくりたる、そのころにあひて盛にさき亂れたり。嵯峨の大井のわたりの野山むとくにけおされたる秋なり。北のひんがしは凉しげなる泉ありて夏のかげによれり。御まへ近き前栽吳竹下風すゞしかるべく木だかき森のやうなる木ども木ぶかくおもしろく山里めぎて、卯の花がきねことさらにしわたして昔おぼゆる花橘、瞿麥、さうび、くだになどやうの花のくさくさをうゑて、春秋の木草その中にうちまぜたり。ひんがしおもては分きてうま塲のおとゞつくり埒ゆひて五月の御遊所にて水のほとりにさうぶうゑしげらせて、むかひにみまやして世になきじやうめどもをとゝのへたてさせ給へり。西の町は、北おもてつきわけて、みくら町なり。へだての垣に松の木しげく雪をもてあそばむたよりによせたり。冬のはじめ朝霜のむすぶべき菊のまがきわれはがほなる柞原、をさをさ名もしらぬ深山木どもの木深きなどをうつし植ゑたり。彼岸のころほひ渡り給ふ。一度にと定めさせ給ひしかどさわがしきやうなりとて中宮は少しのべさせ給ふ。例のおひらかに氣色ばまぬ花ちる里ぞその夜そひてうつろひ給ふ。春の御しつらひはこの頃にあはねどいと心ことなり。御車十五御前四位五位がちにて六位の殿上人などはさるべき限をえらせ給へり。こちたき程にはあらず世のそしりもやと省き給へれば何事もおどろおどろしういかめしきことはなし。今一方の御氣色もをさをさおとし給はで侍從の君そひてそなたはもてかしづき給へばげにかうもあるべき事なりけりと見えたり。女房の曹司まちどもあてあてのこまげぞ大方のことよりもめでたかりける。五六日過ぎて中宮まかでさせ給ふ。この御儀式はたさはい