コンテンツにスキップ

Page:Kokubun taikan 01.pdf/418

提供:Wikisource
このページは校正済みです

給ふことゞもあり。御なからひましていとみやびかに聞えかはしてなむ過ぐし給ひける。世の中響きゆすれる御いそぎなるを式部卿の宮にも聞しめして年頃世の中にはあまねき御心なれどこのわたりをばあやにくになさけなく事にふれてはしたなめ宮人をも御用意なくうれはしきことのみ多かるにつらしと思ひ置き給ふことこそはありけめといとほしくもからくもおぼしけるをかくあまたかゝづらひ給へる人々多かる中に取りわきたる御思ひすぐれて世に心にくゝめでたきことに思ひかしづかれ給へる御宿世をぞ我家まではにほひこねどめいぼくにおぼすに、又かくこの世にあまるまでひゞかしいとなみ給ふは覺えぬ齡の末の盛にもあるべきかなとよろこび給ふを北の方は心ゆかずものしとのみおぼしたり。女御の御まじらひの程などにもおとゞの御用意なきやうなるをいよいようらめしと思ひしみ給へるなるべし。八月には六條の院造りはてゝわたり給ふ。未申の町は中宮の御ふるみやなればやがておはしますべし。辰巳には殿のおはすべき町なり。丑寅はひんがしの院に住み給ふ臺の御方、戌亥の町は明石の御方とおぼしおきてさせ給へり。もとありける池山をもびんなき所なるをばくづしかへて水のおもむき山のおきてをあらためて、さまざまに御方々の御ねがひの心ばへを造らせ給へり。南ひんがしは山高く春の花の木數をつくしてうゑ池のさまおもしろく勝れておまへ近き前栽に五葉、紅梅、櫻、藤、山吹、岩つゝじなどやうの春のもてあそびをわざとは植ゑて秋の前栽をばむらむらほのかにまぜたり。中宮の御町をばもとの山に紅葉の色こかるべき植木どもを植ゑ泉の水とほくすまし遣水の音優るべき岩をたて加