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Page:Kokubun taikan 01.pdf/417

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の猶胸うちさわぎていかにおぼし出づらむ。世をたもち給ふべき御宿世はけたれぬものにこそといにしへを悔いおぼす。ないしのかんの君ものどやかにおぼし出づるに哀なること多かり。今もさるべきをり風のつてにもほのめき給ふこと絕えざるべし。后はおほやけに奏せさせ給ふことある時々ぞ御たうばりのつかさかうふり何くれのことにふれつゝ御心にかなはぬ時ぞ命長くてかゝる世の末を見ることゝ取りかへさまほしう萬をおぼしむつかりける。老いもておはするまゝにさがなさもまさりて院もくらべ苦しう堪へがたくぞ思ひ聞え給ひける。かくて大學の君その日の文うつくしうつくり給ひて進士になり給ひぬ。年積れるかしこき者どもをえらせ給ひしかども及第の人僅に三人なむありける。秋の司召にかうふりえて侍從に成り給ひぬ。かの人の御こと忘るゝ世なけれどおとゞのせちにまもり聞え給ふもつらければわりなくてなどもたいめんし給はず、御せうそこばかりさりぬべき便に聞え給ひてかたみに心苦しき御中なり。

おほひ殿しづかなる御住ひを同じくは廣く見所ありてこゝかしこにて覺束なき山里人などをも集へすませむの御心にて六條京極わたりに中宮のふるき宮のほとりを四まちをしめて造らせ給ふ。式部卿宮明けむ年ぞ五十になり給ひけるを御賀のこと對の上おぼしまうくるにおとゞもげに過ぐし難きことゞもなりとおぼしてさやうの御いそぎも同じくは珍しからむ御家ゐにてといそがせ給ふ。年かへりてはましてこの御いそぎの事御としみのこと樂人舞人のさだめなどを御心に入れて營み給ふ。經佛法事の日のさうぞく祿どもなどをなむうへは急がせ給ひける。ひんがしの院にもわけてし