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Page:Kokubun taikan 01.pdf/396

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この君をだにいかで思ふさまに見なし侍らむ。春宮の御元服只今のことになりぬるをと、人しれず思ひ給へ心ざしたるを、かういふさいはひ人の腹の后がねこそ又おひすがひぬれ。立ち出で給へらむに、ましてきしろふ人ありがたくや」とうち歎き給へば「などかさしもあらむ。この家にさるすぢの人いで物し給はで、止むやうあらじと故大臣のおもひ給ひて女御の御事をもゐたち急ぎ給ひしものをおはせましかば、かくもて僻むる事もなからまし」など、この御事にてぞおほきおとゞを怨めしげに思ひ聞え給へる。姬君の御さまのいときびはに美しうて箏の御琴彈き給ふを御ぐしのさがりば、かんざしなどのあてになまめかしきをうちまもり給へば耻ぢらひて少しそばめ給へる、傍めつらつき美しげにてとりゆの手つきいみじうつくりたるものゝ心ちするを宮も限なく悲しとおぼしたり。搔き合せなど彈きすさび給ひて押しやり給ひつ。おとゞ和琴ひき寄せ給ひてりちのしらべのなかなか今めきたるをさる上手のみだれてかい彈き給へるいとおもしろし。おまへの梢ほろほろと殘らぬに老御達などこゝかしこの御几帳の後に頭をつどへたり。「風の力蓋し寡し」とうちずじ給ひて「きんの手ならねど怪しく物あはれなる夕かな。猶あそばさむや」とて秋風樂にかき合せてさう歌し給へる聲いとおもしろければ、皆さまざまおとゞをもいとうつくしと思ひ聞え給ふに、いとゞそへむとにやあらむ、くわざの君參り給へり。「こなたに」とて御几帳隔てゝ入れ奉り給へり。「をさをさ對面もえ給はらぬかな、などかくこの御學問のあながちならむ。ざえの程々より餘りぬるもあぢきなきわざとおとゞもおぼし知れることなるを、かくおきて聞