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Page:Kokubun taikan 01.pdf/299

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ぶせくおぼしけるにおぼすさまに參りまかで給ふもいとめでたければ、大后はうきものは世なりけりとおぼしなげく。おとゞは事に觸れていと耻かしげに仕うまつり心よせきこえ給ふも、なかなかいとほしげなるを、人も安からずきこえけり。兵部卿のみこ年比の御心ばへのつらくおもはずにて唯世の聞えをのみおぼし憚り給ひし事を、おとゞはうきものにおぼしおきて、昔のやうにもむつび聞え給はず。なべての世には普くめでたき御心なれど、この御あたりはなかなかなさけなきふしもうちまぜ給ふを、入道の宮はいとほしうほいなき事に見奉り給ふ。世の中の事唯なかばを別けておほきおとゞこのおとゞの御まゝなり。權中納言の御むすめその年の八月にまゐらせ給ふ。おほぢおとゞゐたちて儀式などいとあらまほし。兵部卿の宮の中の君もさやうに心ざしてかしづき給ふ名高きを、大臣は人よりまさり給へとしもおぼさずなむありける。いかゞし給はむとすらむ。

その秋住吉に詣で給ふ。願ども果し給ふべければいかめしき御ありきにて世の中ゆすりて上達部殿上人われもわれもと仕う奉り給ふ。折しもかの明石の人年ごとの例の事にて仕うまつるを、こぞことしさはることありて怠りけるかしこまりとり重ねて思ひ立ちけり。船にてまうでたり。岸にさし着くるほど、見ればのゝしりて詣で給ふ人のけはひなぎさに滿ちていつくしきかんだからをもて續けたり。がく人とをつらさうぞくをとゝのへかたちを選びたり。「たがまうで給へるぞ」と問ふめれば「內大臣どのゝ御願はたしにまうで給ふを知らぬ人もありけり」とてはかなき程のげすだに心地よげにうち笑ふ。げにあさましう月日もこそあれ、なかなかこの有樣