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Page:Kokubun taikan 01.pdf/300

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を遙に見奉るに身の程口惜しうおぼゆ。さすがにかけ離れ奉らぬ宿世ながら、かくくちをしききはのものだに物思ひなげにて仕うまつるを色ふしに思ひたるに、何の罪深き身にて心にかけておぼつかなう思ひ聞えつゝかゝりける御ひゞきをも知らで立ち出でつらむなど思ひ續くるに、いと悲しうて人知れずしほたれけり。松原の深綠なる中に花紅葉をこき散らしたると見ゆるうへのきぬの濃き薄き數知らず、六位の中にも藏人は靑色しるく見えて、かの賀茂の瑞垣怨みし右近のしようもゆげひになりてことごとしげなる隨身ぐしたる藏人なり。良淸も同じすけにて人よりことに物思ひなき氣色にておどろおどろしきあかぎぬすがたいと淸げなり。すべて見し人々ひきかへ花やかに何事思ふらむと見えてうちちりたるに、若やかなる上達部殿上人のわれもわれもと思ひ挑み馬鞍などまでかざりをとゝのへみがき給へるは、いみじきものに田舍人も思へり。御車を遙に見やればなかなか心やましくてこひしき御かげをもえ見奉らず。河原のおとゞの御れいをまねびてわらは隨身をたまはり給ひける。いとをかしげにさうぞきみづらゆひて紫すそごのもとゆひなまめかしうたけすがたとゝのひうつくしげにて十人さまことに今めかしう見ゆ。大殿腹の若君限なくかしづきたてゝ馬ぞひわらはのほど皆作りあはせてやうかへてさうぞきわけたり。雲井遙にめでたく見ゆるにつけても若君の數ならぬさまにて物し給ふをいみじと思ふ。いよいよみやしろのかたを拜み聞ゆ。國の守參りて御まうけ例の大臣などの參り給ふよりは殊に世になく仕うまつれりけむかし。いとはしたなければ立ちまじり數ならぬ身の聊のことせむに神も見入