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Page:Kokubun taikan 01.pdf/298

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ゞものたまひ出でゝ、「などてたぐひあらじといみじう物を思ひ沈みけむ。うきみからは同じなげかしさにこそ」との給へるもおいらかにらうたげなり。例のいづこの御言の葉にかあらむ、盡きせずぞ語らひ慰め聞え給ふ。かやうの序にもかの五節をおぼし忘れず、又見てしがなと心にかけ給へれど、いとかたき事にてえまぎれ給はず。女は物思ひ絕えぬを親はよろづに思ひいふこともあれど、世に經むことを思ひ絕えたり。心やすき殿づくりしてはかやうの人つどへても思ふさまにかしづき給ふべき人もいでものし給はゞさる人の後見にもとおぼす。かの院のつくりざまなかなか見所多く今めいたり。よしあるずりやうなどをえりてあてあてに催し給ふ。ないしのかんの君を猶え思ひ放ち聞え給はず。こりずまに立ちかへる御心ばへもあれど、女はうきにこり給ひて昔のやうにもあひしらへ聞え給はず。なかなか所せうさうざうしう世の中をおぼさる。院はのどやかにおぼしなりて、時々につけてをかしき御遊など好ましげにおはします。女御更衣皆例のごと侍ひ給へど、春宮の御母女御のみぞとり立てゝ時めき給ふこともなく、かんの君の御おぼえにおしけたれ給へりしを、かくひきたがへめでたき御さいはひにて離れ出でゝ宮にそひ奉り給へる。このおとゞの御とのゐどころは昔のしげいさなり。梨壺に春宮はおはしませば、ちかどなりの御心よせに何事をも聞え通ひて宮をもうしろみ奉り給ふ。入道きさいの宮御位を又改め給ふべきならねば太上天皇になずらへてみふ賜はり、ゑんじともなりて、さまことにいつくしう、御行ひくどくのことを常の御いとなみにておはします。年比世にはゞかりていでいりもかたく見奉り給はぬをい