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Page:Kokubun taikan 01.pdf/284

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年頃といふばかりなれ給へるを今はと思すはさもある事ぞかしなど見奉る。良淸などはおろかならずおぼすなめりかしとにくゝぞ思ふ。「嬉しきにもげに今日をかぎりにこの渚を別るゝこそ」など哀がりて口々しほたれ言ひあへる事どもあめり。されど何かはとてなむ。入道今日の御まうけいといかめしう仕うまつれり。人々下のしなまで旅のさうぞくめづらしきさまなり。いつのまにかしあへけむと見えたり。御よそひはいふべくもあらず。みぞびつあまたかけさぶらはす。まことの都のつとにしつべき御贈物どもゆゑづきて思ひよらぬくまなし。今日奉るべきかりの御さうぞくに、

 「よる浪にたちかさねたる旅ごろもしほどけしとや人のいとはむ」とあるを御覽じつけて、さわがしけれど

 「かたみにぞかふべかりける逢ふことの日數へだてむ中の衣を」とて志あるをとて奉りかふ。御身になれたるどもを遣す。げに今ひとへしのばれ給ふべき事をそふるかたみなめり。えならぬ御ぞに匂ひのうつりたるをいかゞ人の心にもしめざらむ。入道今はと世を離れ侍りにしことなれども今日の御おくりに仕うまつらぬ事など申してかいつくるもいとほしながら若き人は笑ひぬべし。

 「世を海にこゝらしほじむ身となりてなほこの岸をえこそはなれね。心のやみはいとゞ惑ひぬべく侍れば境までだに」と聞えて「すきずきしきやうなれど思し出でさせ給ふをり侍らば」など御氣色たまはる。いみじう物を哀とおぼして所々うち赤み給へる御まみのわたり